和歌山市感染症情報センター

Wakayama City Infectious Disease Surveilance Center
疥癬(かいせん)を正しく知りましょう
 「疥癬」はダニの一種である「ヒゼンダニ」がヒトの皮膚に寄生しておこる皮膚の病気で、腹部、胸部、大腿内側などに激しいかゆみを伴う感染症です。直接的に肌から肌、また、衣類やリネン類を介して間接的にヒトからヒトへ感染します。疥癬には、通常疥癬と角化型疥癬の2つのタイプがあります。
 通常疥癬で寄生するヒゼンダニの数は数十匹以下ですが、角化型疥癬では100万〜200万匹であり、その感染力に大きな違いがあります。


■通常疥癬
 長い時間、肌と肌、手と手が直接触れることで、ダニが移動して感染します。少しの時間ではほとんど感染しません。まれに、患者さんが使用した寝具や衣類などを交換せずにすぐ他の人が使用することで感染することもあります。感染してから症状が出るまでの潜伏期間は1〜2か月です。


■角化型疥癬(ノルウェー疥癬とも呼ばれることもあります)
 ダニが多く、感染力が強いため、短時間の接触、衣類や寝具を介した間接的な接触などでも感染します。また、剥がれ落ちた角質にも多数の生きているダニが含まれていて、それが付着することでも感染します。角化型疥癬の患者さんから感染する場合、4〜5日後に発症することもあります。なお、角化型疥癬患者から感染した場合でも、まずは、通常疥癬として発症します

  通常疥癬 角化型疥癬
ヒゼンダニの数 数十匹以下 100万〜200万匹
患者さんの免疫力 正常 低下している
感染力 弱い 強い
主な症状 丘診、結節 角質増殖
かゆみ 強い 不定
症状が出る部位 顔や頭を除く全身 全身

 疥癬は、病院や施設など、長時間にわたり集団生活する場で、入院(入所)者や職員にも感染が起こり、また媒介となりうる感染症です。時に集団発生を起こすことがあり注意が必要です。

感染経路には通常疥癬から感染する場合と角化型疥癬から感染する場合があり、感染のしかたも病型によって違いがあります。


■通常疥癬からの感染
=直接経路=
長時間、直接肌と肌が接触することによって感染します。短い時間触れるぐらいなら感染の心配はありません。
=間接経路=
まれに通常疥癬の患者さんが使用した寝具(布団やベッド、シーツ)などを替えずに、すぐに他の人が使用することによって感染することもあります。


■角化型疥癬からの感染
=直接経路=
短時間の接触で感染します。
=間接経路=
衣類や寝具を介して感染します。角化型疥癬では角層内に多数のダニを含んでおり、皮膚から剥がれ落ちた角層に接触するだけでも感染します。

まずは、皮膚科に受診し、正しい診断を受けしましょう。 疥癬と診断を受けた場合は、治療を開始し、家庭内での感染を防ぎましょう。 通常疥癬と角化型疥癬では感染力の強さが異なりますので、対応が異なります。


■通常疥癬の場合
 ・同室で布団を並べて寝ない。
 ・長時間、他の人と肌と肌を接触させない。
 ・寝具や衣類など肌に直接触れるものの共用を避ける。
 などです。


■角化型疥癬の場合
まわりの人にも感染する可能性が高いため、上記対応に加え、
 ・衣類、シーツ類は毎日交換し、50℃以上のお湯に10分以上浸した後に洗濯してください。
 ・寝具、マットなどは掃除機で表面を丁寧に掃除してください。
 ・入浴は毎日行いましょう。 ・掃除は居室を中心に掃除機で丁寧に掃除してください。
 ・殺虫は治療開始時に居室や共同使用していた部屋に殺虫剤を散布します。また、治療終了時にも念のため殺虫剤をもう一度散布しましょう。
 また、家族の方が疥癬と診断されたら、同居の方は皮膚科を受診してください。

通常疥癬と角化型疥癬では感染力が大きく異なるため、対応も大きく異なります。

 表に示した、感染予防策は疥癬発症者を短期間でゼロにすることを目指していません。疥癬の潜伏期間は長く、潜伏期を抜けて発症する者がでる可能性の期間は数カ月におよぶため、発症者を的確に診断・治療し,角化型疥癬への進展を防げば,集団発生は必ず終息します。過剰な感染予防処置を行ってスタッフが疲弊しないようにするのが、集団感染対策の要点です。
 この対策は治療が既に始まっていることを前提にして、治療は疥癬における最優先の感染予防策です。

対応 通常疥癬 角化型疥癬
患者隔離   不要

個室隔離
治療開始後1〜2週間

身体介護 手洗い(処置ごと) 励行 励行
予防衣 状況に応じて(標準予防策) 患者対応時は着用
入浴   入浴に制限なし 入浴は最後とし,浴槽や流しは水で流す
脱衣所に掃除機をかける
居室
環境整備
患者居室の殺虫剤 不要 退院時に殺虫剤散布、水拭き、掃除機
掃除 通常の方法 モップ・粘着シートなどで落屑を回収後,掃除機で清掃
布団の消毒 不要 ビニールに入れ、殺虫剤を噴霧し24時間密封
車椅子・ストレッチャー 患者使用時清拭 殺虫剤散布、掃除機、清拭
診察室・検査室ベッド 患者使用時清拭 ディスポシーツ使用
血圧計 患者使用時清拭 殺虫剤散布後、清拭
リネン類 シーツ・寝具

通常の方法
他の患者との共用はしない

自家感染予防のため治療の度に交換
洗濯物 ビニール袋に入れて運搬 ビニールに入れ、殺虫剤を噴霧し24時間密封
洗濯 通常の方法 洗濯後に乾燥機を使用。もしくは50℃ 10分間熱処理後洗濯

 ※通常と角化型の疥癬をはっきり区別するのが難しい症例もあり、集団に免疫不全状態の者がいる場合とそうでない場合で対応が異なります。この表で示したのは基本的対策とその根拠となる考え方であり,詳細は各施設で検討が必要です。


■通常疥癬患者への対応
角化型疥癬(ノルウェー疥癬)に比べ、感染の可能性は極めて少なくなりますが、標準予防策を徹底しましょう。

・接触前後で手洗い。手袋は必須ではない。流水と石鹸でよく手を洗う。 面会者も手洗いが必要。
・リネン類は通常の洗濯方法で良いが、リネンの運搬はビニール袋に入れて行うことが望ましい。
・部屋の清掃は通常通りでよい。
・入浴に際しては、タオルなど肌に直接触れるものの共用を避ける。
・食器などは通常扱いでよい。聴診器、血圧計などは使用後清拭。
・殺虫にはピレスロイド系殺虫剤もしくは50℃ 10分間熱処理が有効。


■疥癬と診断されたスタッフの対応
角化型疥癬患者から感染した場合でも、まずは、通常疥癬として発症します。他の人に感染させる可能性は極めて少ないですが、標準予防策を徹底しましょう。

・通常勤務で問題ない。
・手に皮疹があり、処置などをする場合は、手袋を着用する。
・患者と密接に接する場合(入浴、オムツ交換など)は長袖エプロン(ビニール)を着用する。
・しっかりと治療する。
・上記対応は治療開始から1〜2週間を目処に検討しましょう。


■疑うべき症状と判断のポイント
疥癬は早期発見が大切。入院(入所)時や普段のケア時に皮膚の観察を行いましょう。

・皮膚に掻痒感があり、赤い乾燥した皮膚の盛り上がりがある。時に、疥癬トンネルと呼ばれる線状の皮疹が認められる。
・特に他の施設から移ってこられる方は、注意して観察する。
・免疫不全患者(糖尿病、ステロイド投与、腎不全など)は感染するリスクが高い。
・感染を疑ったら、できるだけ早く皮膚科へ受診させる。
・施設内で疥癬患者が確認された場合には、職員への周知、啓発を行う。また、他の入院(入所)者に感染していないか確認し、感染の範囲を特定する。
・疥癬患者との接触状況を確認する。特に医療関係者は自分に感染していないか確認。
・角化型疥癬の患者が確認された場合には、予防的治療が必要となることがある。
・角化型疥癬の患者から剥がれた落屑に直接触れないように気をつける。

参考:高齢者介護施設における感染対策マニュアル(厚生労働省) 疥癬診療ガイドライン第3版(日本皮膚科学会)